日本国内では、オリジナルよりもこの吹奏楽編曲版のほうが、圧倒的に演奏機会が多いのではないでしょうか。 仲田守編曲とDavid John編曲の二種類があるようですが、国内では一般的には前者のほうがよく演奏されているようです(後者は終曲「マランボ」のみかも)。 |
吹奏楽編曲版(仲田 守 編曲) いやあ、私のようなオケ関係者からすると、オーケストラの曲を吹奏楽にアレンジした曲って、正直言ってけっこう違和感あるんですよねー。私も中学時代はブラスの人間で、当時は全然疑問に思わなかったのですが、オケ生活に染まった今となっては吹奏楽編曲モノを聞くと思わず笑ってしまうこともあります(吹奏楽の方ごめんなさい)。「曲目解説」の項でもちょっと触れましたが、オルフの合唱曲「カルミナ・ブラーナ」の合唱の部分を全部管楽器でやっちゃったりとか「なぜそこまでして...」とか思ったりね(爆)。あと怪しげな楽器の追加とか。過去に一番笑ったのは、ドボルジャークの8番4楽章の編曲版で、有名な「黄金虫」の部分(ラッラッラーラ、ラシドシラ)に大太鼓と小太鼓が追加されてて、旋律に合わせて「ドンドンドン(チャカチャッチャッ)」とアイノテ入れてました。いやあ、あれには腹を抱えて笑ったなあ(^^)。 さて、この仲田守という方、元々はサックス奏者なのだそうですが、吹奏楽の編曲者としても大変有名なお方で、とくにバルトーク、ラヴェル、ショスタコなどの近現代の「過激系」オケ作品をアレンジして吹奏楽界に紹介しまくっていて、全国の吹奏楽コンサートでは彼の編曲した作品が重要なレパートリーになっているようです。 で、この「エスタンシア」の仲田守による編曲ですが、実はそれほどの違和感は感じさせない出来で、「おお、うまくやってるなあ」と思わせます。まあ、元々この曲が「弦楽器も入ってるの?」ってぐらい管打楽器中心の曲だからでしょうか。ブラスなので、ベース以外の弦楽器は無く(当たり前か)、かわりにサックス軍団が入り、クラリネットがドバッと増え、また原曲にはないトロンボーンやチューバも入ります。打楽器はマリンバが追加されているようです。
という感じで、印象としては、オケ版オリジナルではほとんど聞こえないような音型が聞こえてきて面白いのと、あとオケ版では管の旋律に弦が不協和音のコードを伴奏する場面が多いのですが、これが全部管楽器になるので、不協和音の「ぶつかり」が結構目立ち、現代物っぽい印象が強くなっているかもしれません。 というわけで、工夫をこらされた編曲によってなかなか面白く仕上がっているのですが、やはりもしこの曲を吹奏楽編曲版でしか知らない人がいたら、ぜひオリジナルを聞いてほしいです。ヒナステラが意図した響き、思い描いた世界をぜひ体験してください(でもブラス版から見ると、「なんか物足りないなあ」とか思うのかも^^;)。 |
YURI
NAKAMURA Tokyo Kosei Wind Orchestra |
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1993, Tokyo
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指揮の中村ユリさん(私も一度彼女の指揮でやったことあります)はもともとオケ畑の人だけあって、どちらかというと原曲のオーケストラの持つ雰囲気を想定しながら、この吹奏楽を振っているような感じがします。たとえばII曲目「小麦の踊り」の冒頭をはじめ、追加された部分のマリンバや木琴はあくまで「音色を添える」程度に優しく叩かれているのは↓の編曲者自演盤とはだいぶ違う点です。 その他の収録曲 |
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「シバの女王ベルキス 近・現代名曲集」 [キングレコード KICG 3062] |
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MAMORU
NAKATA Muse Festival Wind Orchestra |
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1995,
Tokorozawa
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こちらは編曲者自ら指揮をした演奏。自分が自信を持って編曲しただけあって、原曲にはない追加された楽器や他パートに移した部分なんかも臆することなくバリバリと聞かせます。「これがブラスだ!文句あるか!」とでも言いたそうな雰囲気。ゆえに、原曲の感じとはかなり変わっていますが(特にマリンバが全面に出たII曲目の冒頭はアマゾンっぽくっておどろおどろしい^^;)、独立した吹奏楽の楽曲として考えれば、↑のユリさんの演奏よりも派手でふっきれた感じになってます。 その他の収録曲 |
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「LIVE. LIKE. LIFE!」 [BRAIN MUSIC OSBR-16070] |
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ASAKO
HANYUDA Yashio Junior High School Brass Band Club |
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1997, Tokyo
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日本の吹奏楽といえば、なんと言っても普門館で毎年開かれる「全日本吹奏楽コンクール」。これは1997年の大会の実況録音盤で、埼玉県の八潮市立八潮中学校吹奏楽部が演奏した「エスタンシア」が入っています(この演奏は「銀賞」を取ったとのこと)。 その他の収録曲 |
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「日本の吹奏楽'97 VOL.3 中学校編」 [SONY SRCR2133] |
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吹奏楽編曲版(David John 編曲) こちらの編曲は、↓のCDが出ています。と言っても終曲の「マランボ」しか入っていませんので、もしかしたらこの編曲版はこの「マランボ」の部分だけしかないのかもしれません(未確認)。オーケストラ曲を吹奏楽に移す作業は、わりと誰がやっても近い結果になるようで、聞いた感じは仲田守さんのやつとそんなに大きく違うという印象は受けません。「展覧会の絵」みたいに同曲の異なる編曲版を聞き比べるような楽しみは無いですね。 敢えて言うとしたら、こちらは仲田版に比べてとっても地味ですね。編成も聞いた感じではかなり小さいようですし、敢えて追加されている楽器も目立ちません。仲田版が「吹奏楽曲として完成された作品」を目指したのに対して、たぶんこちらのコンセプトは「管弦楽曲を吹奏楽で演奏できるような、最低限の移植作業」という感じなのかなあという気がします。 |
FREDERICK
FENNELL Dallas Wind Symphony |
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1994,
Dallas
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というわけで、仲田版による上記の演奏と比べると、かなりおとなし目の印象をうけます。というよりも、編成的に比較的小さいのでそう聞こえてしまうのでしょう。 その他の収録曲 |
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「BEACHCOMBER: Encores for Band」 [REFERRENCE RECORDINGS RR-62CD] |
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ディスコグラフィー その3. <終曲「マランボ」のみのCD>