Alberto Ginastera: ESTANCIA Discography

ヒナステラ: バレエ「エスタンシア」ディスコグラフィー

<その4. 吹奏楽編曲版のCD>
 日本国内では、オリジナルよりもこの吹奏楽編曲版のほうが、圧倒的に演奏機会が多いのではないでしょうか。
 仲田守編曲とDavid John編曲の二種類があるようですが、国内では一般的には前者のほうがよく演奏されているようです(後者は終曲「マランボ」のみかも)。

吹奏楽編曲版(仲田 守 編曲)

 いやあ、私のようなオケ関係者からすると、オーケストラの曲を吹奏楽にアレンジした曲って、正直言ってけっこう違和感あるんですよねー。私も中学時代はブラスの人間で、当時は全然疑問に思わなかったのですが、オケ生活に染まった今となっては吹奏楽編曲モノを聞くと思わず笑ってしまうこともあります(吹奏楽の方ごめんなさい)。「曲目解説」の項でもちょっと触れましたが、オルフの合唱曲「カルミナ・ブラーナ」の合唱の部分を全部管楽器でやっちゃったりとか「なぜそこまでして...」とか思ったりね(爆)。あと怪しげな楽器の追加とか。過去に一番笑ったのは、ドボルジャークの8番4楽章の編曲版で、有名な「黄金虫」の部分(ラッラッラーラ、ラシドシラ)に大太鼓と小太鼓が追加されてて、旋律に合わせて「ドンドンドン(チャカチャッチャッ)」とアイノテ入れてました。いやあ、あれには腹を抱えて笑ったなあ(^^)。

 さて、この仲田守という方、元々はサックス奏者なのだそうですが、吹奏楽の編曲者としても大変有名なお方で、とくにバルトーク、ラヴェル、ショスタコなどの近現代の「過激系」オケ作品をアレンジして吹奏楽界に紹介しまくっていて、全国の吹奏楽コンサートでは彼の編曲した作品が重要なレパートリーになっているようです。

 で、この「エスタンシア」の仲田守による編曲ですが、実はそれほどの違和感は感じさせない出来で、「おお、うまくやってるなあ」と思わせます。まあ、元々この曲が「弦楽器も入ってるの?」ってぐらい管打楽器中心の曲だからでしょうか。ブラスなので、ベース以外の弦楽器は無く(当たり前か)、かわりにサックス軍団が入り、クラリネットがドバッと増え、また原曲にはないトロンボーンやチューバも入ります。打楽器はマリンバが追加されているようです。

I.

「開拓者たち」 冒頭から管のTuttiがなかなかの迫力。お、意外なところで木琴が入ってきたぞ!なんかラッパも重なってるぞ!低弦がTrb&Tubaになるとよく聞こえるなあ。こんな音型をやってたのか。あ、また意外な木琴登場!しかもすごい妙な旋律をやらされてるぞ(笑)。

II.

「小麦の踊り」 おおっ、のっけからマリンバ登場だ!フルートソロの部分はSop. Saxがやってるぞ。この組み合わせだと「アルゼンチンのパンパ」ってより「ブラジルのアマゾン」って感じだなあ。そういえばヴィラ=ロボスの「ショーロス」にそんなのあったなあ。弦の旋律の部分は木管群+トランペットで朗々と歌ってて、結構ナイス。Vnソロはオーボエ。意外にいいじゃん。

III.

「牧童」 ま、この楽章はもともと「弦あるの?」って感じだからなあ。おおっと!このTrbの「ばーーふっ!」ってメロディはなんだ、いったい?がーん、スコア見たら、チェロとベースがグリッサンドしてるとこじゃん。ふつう聞こえないよなあ、こんなの。ブラス版を聞いてはじめて発見したぞ(爆)。

IV.

「終曲の踊り
<マランボ>」
冒頭の弦のgliss.は木琴がやっててアイデア賞。この曲で最初から最後まで延々と続く弦の「ズザザザザザ」という刻みは、管が「バボボボボボ」でやってるぞ。ひゃー、聞いてるだけで酸欠になりそう(^^;)。クラのフラッターの叫びは、重ねられているせいでしょうか、とってもよく聞こえてナイス!あとはひたすらトランス状態で熱狂して盛り上がれるのはオケ版でもブラス版でもいっしょですね。

 という感じで、印象としては、オケ版オリジナルではほとんど聞こえないような音型が聞こえてきて面白いのと、あとオケ版では管の旋律に弦が不協和音のコードを伴奏する場面が多いのですが、これが全部管楽器になるので、不協和音の「ぶつかり」が結構目立ち、現代物っぽい印象が強くなっているかもしれません。

 というわけで、工夫をこらされた編曲によってなかなか面白く仕上がっているのですが、やはりもしこの曲を吹奏楽編曲版でしか知らない人がいたら、ぜひオリジナルを聞いてほしいです。ヒナステラが意図した響き、思い描いた世界をぜひ体験してください(でもブラス版から見ると、「なんか物足りないなあ」とか思うのかも^^;)。

YURI NAKAMURA
Tokyo Kosei Wind Orchestra

1993, Tokyo

I. 3:11
II. 3:21
III. 1:49
IV. 3:50

 指揮の中村ユリさん(私も一度彼女の指揮でやったことあります)はもともとオケ畑の人だけあって、どちらかというと原曲のオーケストラの持つ雰囲気を想定しながら、この吹奏楽を振っているような感じがします。たとえばII曲目「小麦の踊り」の冒頭をはじめ、追加された部分のマリンバや木琴はあくまで「音色を添える」程度に優しく叩かれているのは↓の編曲者自演盤とはだいぶ違う点です。
 東京佼成ウィンドオーケストラは、さすがに日本を代表する吹奏楽団だけあって、安定した実力を聞かせてくれます。というか、いつもはベートーベンとかブラームスとかばっかりやってるオケがいきなり「エスタンシア」をやらされても「????」って感じになりがちでしょうが、ブラバンの方がかえってこの手の曲には慣れっこなんでしょうね(^^)。
 テンポは遅めですが、まあそのぶん安心して聞けるので、「お手本演奏」としてもいいかもしれませんね。

その他の収録曲
・レスピーギ(淀彰編):「シバの女王ベルキス」
・ショスタコーヴィチ(仲田守編):「黄金時代」
 ほか

「シバの女王ベルキス 近・現代名曲集」
[キングレコード KICG 3062]

MAMORU NAKATA
Muse Festival Wind Orchestra
1995, Tokorozawa

I. 3:07
II. 3:14
III. 1:53
IV. 3:50

 こちらは編曲者自ら指揮をした演奏。自分が自信を持って編曲しただけあって、原曲にはない追加された楽器や他パートに移した部分なんかも臆することなくバリバリと聞かせます。「これがブラスだ!文句あるか!」とでも言いたそうな雰囲気。ゆえに、原曲の感じとはかなり変わっていますが(特にマリンバが全面に出たII曲目の冒頭はアマゾンっぽくっておどろおどろしい^^;)、独立した吹奏楽の楽曲として考えれば、↑のユリさんの演奏よりも派手でふっきれた感じになってます。
 こちらはライブ盤ということで、多少荒さも目立ちます。アンサンブルが崩れたり、打楽器がリズム間違えたりしています。でも個人の技量はやはりけっこう安心できます。
 あと、IV曲目の解釈ですが、例の最後のマランボの繰り返しの部分に入ったところでかなり音量を落とし、繰り返しながらだんだん少しずつ音量を上げていき、最後に向かってフォルテになるという長いクレッシェンドで演奏しています。個人的にはこれはどうかなあと思います。作曲者も「常に強く(sempre f)」と書いているし、やはり強いままで執拗に繰り返されてこそトランス状態になれるというものでは?

その他の収録曲
・ハチャトゥリャン(仲田守編):組曲「仮面舞踏会」より
・グラズノフ(仲田守編):サクソフォーン協奏曲
 ほか

「LIVE. LIKE. LIFE!」
[BRAIN MUSIC OSBR-16070]

ASAKO HANYUDA
Yashio Junior High School Brass Band Club

1997, Tokyo

I. 7:25
II.
IV.

 日本の吹奏楽といえば、なんと言っても普門館で毎年開かれる「全日本吹奏楽コンクール」。これは1997年の大会の実況録音盤で、埼玉県の八潮市立八潮中学校吹奏楽部が演奏した「エスタンシア」が入っています(この演奏は「銀賞」を取ったとのこと)。
 中学生の演奏とはいえ、なかなかやるじゃん、君たち。まあ吹奏楽コンクールといえば、半年間、朝から晩まで、休日や夏休みも返上して、ずーっと「エスタンシア」を練習していたのだと思います。この子たちの頭の中からは「マランボ」のメロディとリズムが一生消えることはないでしょうね(^^)。
 III曲目を除いた三曲が演奏されていますが、制限時間の都合から、大胆なカットも多くあります。またオーボエソロの代わりにクラでやってたり、ペットの旋律をオクターブ下げたりという変更もあります。こうしたカットや編曲の問題は、「吹奏楽コンクール」について常について議論されている問題なので、敢えて非難はしませんが、まあ日本の吹奏楽界の良い面も悪い面も知ることができる「エスタンシア」の演奏、と言えるかもしれません。この子たちが大人になって、本物の「エスタンシア」の魅力に気づいてくれればいいのですが。
 指揮の羽生田麻子先生の解釈は意外とアグレッシブで、II曲目なんかはかなりテンポを揺らしていて楽しいです。あと、特筆すべきは大太鼓。バティス盤に匹敵するパワーで炸裂しています。君に「よくがんばったで賞」をあげよう!

その他の収録曲
・内藤淳一:課題曲II:マーチ「夢と勇気、憧れ、希望」
・大栗裕:大阪俗謡による幻想曲
 ほか

「日本の吹奏楽'97 VOL.3 中学校編」
[SONY SRCR2133]

吹奏楽編曲版(David John 編曲)

 こちらの編曲は、↓のCDが出ています。と言っても終曲の「マランボ」しか入っていませんので、もしかしたらこの編曲版はこの「マランボ」の部分だけしかないのかもしれません(未確認)。オーケストラ曲を吹奏楽に移す作業は、わりと誰がやっても近い結果になるようで、聞いた感じは仲田守さんのやつとそんなに大きく違うという印象は受けません。「展覧会の絵」みたいに同曲の異なる編曲版を聞き比べるような楽しみは無いですね。

 敢えて言うとしたら、こちらは仲田版に比べてとっても地味ですね。編成も聞いた感じではかなり小さいようですし、敢えて追加されている楽器も目立ちません。仲田版が「吹奏楽曲として完成された作品」を目指したのに対して、たぶんこちらのコンセプトは「管弦楽曲を吹奏楽で演奏できるような、最低限の移植作業」という感じなのかなあという気がします。

FREDERICK FENNELL
Dallas Wind Symphony
1994, Dallas
IV. 3:39

 というわけで、仲田版による上記の演奏と比べると、かなりおとなし目の印象をうけます。というよりも、編成的に比較的小さいのでそう聞こえてしまうのでしょう。
 ダラス・ウィンド・シンフォニーは、はっきり言ってあんましうまいとは言えません(^^;)。打楽器もけっこう間違えてるしなあ。
 日本の吹奏楽界では有名なフレデリック・フェネルの指揮したこのアルバム、「エスタンシア」自体は特筆すべきこともないですが、編曲版を含めた吹奏楽の様々な小品が計18曲も集められ、それはそれで楽しめます。しかも編曲者の中には仲田守や岩井直博などの名があり、また曲にも「八木節」なんかがあったりして、フェネルと日本のつながりや、また世界の吹奏楽における日本の影響力なども伺い知ることができます。
 あと、この中にバーンスタインの「スラヴァ!」を見つけた時は、「まったく、ブラスの奴らときたら、オリジナルだととんでもねえ曲を平気で....」と改めて思いました(^^;)。

その他の収録曲
・アンダーソン:舞踏会の美女
・グリエール(Leidzen編):ロシア水兵の踊り
 ほか

「BEACHCOMBER: Encores for Band」
[REFERRENCE RECORDINGS RR-62CD]

ディスコグラフィー その1. <組曲版のCD>

ディスコグラフィー その2. <全曲版のCD>

ディスコグラフィー その3. <終曲「マランボ」のみのCD>

ディスコグラフィー その4. <ピアノ版のCD>

ディスコグラフィー その6. <その他の編曲版のCD>

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