『日本語教育』112号 p79

 

[2001年度日本語教育学会秋季大会発表要旨]

海外における日本語アクセント教育の現状

磯村 一弘
(2001.10.7)

 海外で日本語を教えるノンネイティブ日本語教師を対象に、日本語アクセント教育に関するアンケート調査を行った。回答は、46カ国の計275人の教師から得られた。その結果、次のようなことがわかった。

1.
ノンネイティブ教師たちは、日本語アクセント一般についての概論的な知識はある程度あるものの、個々の語のアクセントや活用形のアクセントなど具体的な知識については不十分であった。
2.
海外で使われている多くの教材には、アクセントの記号が付されていないことがわかった。ただし中国は例外で、教科書では個々の単語のアクセントを示すのが普通であった。
3.
自分の学生に「アクセントを教えていない」という教師が多く、その理由として「自分が知らないから、自信がないから」という回答が多かった。また、教材にアクセントの記号が「書かれていなかった」という回答が多い国ほど、「アクセントを教えていない」という回答も多かった。
4.
日本語アクセント教育に対する教師のビリーフを調べたところ、正しいアクセントを話したい、教えたい、というモチベーションはきわめて高いにもかかわらず、自分ができないために教えたくても教えられない、という状況であることがわかった。同時に「最初から教えてくれれば良かった」「教材にはアクセントの記号を書くべき」などの、自分の受けてきたアクセント教育への不満を表す声も多かった。

 以上のことから、これまでの日本語教育においてアクセントを軽視してきたり教材に記号を書かなかったりしたことが、現在海外で「教えたくても教えられない」教師を産み、アクセント教育が悪循環に陥っている状況が伺える。これを改善するためには、全ての日本語教材にアクセントの記号を付し、アクセントによる韻律の違いを学習初期の段階から意識させることが必要である。少なくとも学習者がアクセントの存在を認識し、学びたければ学べるような環境に変えていかなければならないと言えるだろう。

(国際交流基金日本語国際センター)