Alberto Ginastera: ESTANCIA Discography

ヒナステラ: バレエ「エスタンシア」ディスコグラフィー
<「生(なま)エスタンシア」の記録>
 この曲を実際のコンサートで生で聴いたり、ましてや自分で演奏する機会などは、なかなかないと思われます。このページでは、私がかつて経験したこのような「生(なま)エスタンシア」について、ご紹介していきたいと思います。書き出してみると、「記録」というよりも極めて私的なエッセイになってしまいました。よって資料価値はあまりないと思われますので御了承ください。


●演奏会で聴いた「エスタンシア」の記録
1988/10/11  東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(堤俊作指揮/昭和女子大人見記念講堂)
1991/4/22 ベネズエラ国立シモン・ボリーバル交響楽団(マヌエル・ガルドゥフ指揮/Bunkamuraオーチャードホール)
1998/5/22 国立アルゼンチン交響楽団(ペドロ・イグナチオ・カルデロン指揮/すみだトリフォニーホール)
1999/12/1  NHK交響楽団(シャルル・デュトワ指揮/サントリーホール)
●自分で演奏した「エスタンシア」の記録
1999/12/12 ル・スコアール管弦楽団(橘直貴指揮/練馬文化センター大ホール)
2000/8/19  水星交響楽団(斉藤栄一指揮/くにたち郷土文化館歴史庭園)

●演奏会で聴いた「エスタンシア」の記録

 「エスタンシア」を客として聴いたコンサートの記録です。東京近郊の演奏会が主です。この曲がコンサートで演奏されるとなるとけっこうこまめにチェックしているはずなので、カバー率は高いと思われます(しょせん、ごくごく数少ない機会ですからねえ)。ただし、ちゃんと聴きに行ってはいるものの、私はあまりマメな正確ではないため(しかもまさかこんなページを作ることになろうとは思わなかったし^^;)、演奏会に行って感想を記録に残したりするような習慣はなく、かつプログラム冊子は買わない主義、タダで配布されていても取っておかない主義なので、全て記憶をもとにして書いています。とくに昔のコンサートなどはすでに記憶が曖昧な部分があり、他の方に情報を教えていただくなどのフォローもいただいておりますが、もしかしたら思い違いの記述が含まれているかもしれません。その点ご勘弁願います。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 ラテン・シンフォニック・コンサート
1988年10月11日(火)  昭和女子大学人見記念講堂
指揮:堤 俊作

ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ第5番(ソプラノ独唱:大倉由紀枝/チェロ合奏:東京メモリアルチェロアンサンブル)
チャベス:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:黒沼ユリ子)
カレーニョ:マルガリテーニャ
サルミエントス:供物と感謝(地震1976)
ヒナステラ:バレエ音楽「エスタンシア」

<アンコール>
不明(おぼえている方は教えてください)

 私がまだ法律的にお酒を飲んではいけない大学生だった頃の、ずいぶん昔の話です。記憶もすでにかなり曖昧です(^^;)。当時私は大学オーケストラ(東京外国語大学管弦楽団)で打楽器を叩いておりました。定期演奏会でヴィラ=ロボスの「ショーロス第6番」を演奏し、南米音楽に染まり始めていた私は、部室に貼ってあったこの演奏会の招待状を我先にとゲットし、期待に胸を膨らませて三軒茶屋へと向かいました。なんたって、演奏曲目がぜんぶ南米音楽なんていうコンサートは、なかなかないですからね。

 演奏会の曲目は、たぶんほとんどがそのとき初めて聴く曲だったと思います。でも、どの曲も派手で親しみやすくて、しかも打楽器が大活躍ときたもんだから、最初から最後まで非常に楽しむことができました。チャベスではヴァイオリンの大胆な使い方に感心し、サルミエントスではその咆哮とでも言うべき大音量の迫力に身を浸し、と、この時以来すっかり南米のクラシック音楽にはまってしまったと言えるでしょう。

 で、このコンサートでのメイン(最後の曲)がヒナステラの「エスタンシア」組曲で、これがこの曲を初めて知った記念すべき瞬間でした。第一印象は「明るく楽しい"春の祭典"」って感じだったかな。とにかく打楽器が大活躍できる曲だったので、これは絶対いつか私も演奏したい、とこのとき心に決めました(^^)。この日の演奏はオケ全体がかなり熱が入っていたようで、はじめて聴く「マランボ」の執拗な繰り返しにはすっかり興奮状態。特に、髪を振り乱して木琴の超絶技巧を豪快に叩きまくるお姉さんに、目が釘付けになってしまいました。この演奏会の後、すぐにこの「エスタンシア」のCDを探しにかかったのは言うまでもありません(ちなみに、この時代に入手できた国内盤は、グールド&ロンドン響のやつだけでした)。

 「エスタンシア」という曲に最初に接したのがこのブラボーな実演だったということが、この曲にここまでハマるきっかけになったと言えるかもしれません。もし最初がCDだったり、あまり熱のこもらない演奏会だったりしたら、「ん、結構いい曲だね」ぐらいでそのまま特に意識せずに終わってしまったかも。そうした意味ではラッキーだったと言えましょう。

 なお、この約10年後、ついに自分でこの曲を演奏する機会が来て(後述の「ル・スコアール管弦楽団」の項参照)、日本ショットからレンタルしたパート譜を見たとき、打楽器のパート譜には「安藤」とかのように、どこで誰がどの楽器を演奏するかのメモが書き込まれていました。これを見たとき、「ああ、きっとあの時の演奏会のやつなんだろうなあ」と思い出がよみがえり、なかなか感慨深かったです。 

 演奏会データの詳細(日付、他の演目等)は、「クラシック招き猫」にて「WOODMANN」さんに教えていただきました。

ベネズエラ国立シモン・ボリーバル管弦楽団
1991年4月22日(月)  Bunkamuraオーチャードホール
指揮:マヌエル・ガルドゥフ

ショスタコーヴィチ:祝典序曲
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(ピアノ独奏:カルロス・ドゥアルテ)
カレーニョ:マルガリテーニャ
ヒナステラ:エスタンシア

<アンコール>
ファリャ:歌劇「はかなき人生」より「舞曲」
プロコフィエフ:歌劇「3つのオレンジへの恋」より「行進曲」
ヒナステラ:エスタンシアより「マランボ」(たぶん)

 前述の南米音楽コンサートで「エスタンシア」を知り、CDも仕入れ、オケの周りの人間への普及(洗脳?)活動に励んでいたころです。この知られざる南米のオケが初来日して、しかも「エスタンシア」を取り上げるという。これは何としてでも行かなくては!ということで、早速チケットを購入しました。

 今でこそ、DORIAN Recordingsから出ているマータ指揮の一連のラテンアメリカ音楽シリーズの録音(「エスタンシア」も含まれます)によって、特に南米音楽ファンには「南米を代表する実力派オケ」として有名になったこのオーケストラですが、当時は日本ではぜんぜん知られていなくて、「ベネズエラ?ど、どこだっけ?シモン・ボリバル?たしか世界史の教科書に出てきたぞ....でもなんでオーケストラにそんな名前が付いてるんだ?しかも入場料バカ安じゃん(たしか2〜3000円程度だった)!なんかムチャクチャ怪しいなあ....。大丈夫なんだろうか?」と、期待よりも不安の方が大きい感じでした。でも、海外オケの来日公演といえばどこもかしこも同じような決まった曲しかやらないというつまんない現状の中で、「エスタンシア」なんていう非有名曲をメインに敢えて持ってくるのですから、何かやってくれるんじゃないか、少なくとも入場料のもとは取れるだろう、という思いもありました。

 で、当日の演奏会ですが、今でも印象に強く残っているのは、弦楽器の多さでした。「いったい何プルいるんだ?」と数えて途中でわからなくなるぐらい、大人数の奏者がオーチャードの舞台にワラワラとひしめき合っていました。で、演奏内容なのですが、すみません、前半のプログラムのことはなーんにも覚えてません(^^;)。タコの祝典や、チャイコのPf協なんてやってたのか、そういわれてみればそんな気もするなあ。まあ、お目当てはなんと言っても「エスタンシア」でしたし、それ以外は特に印象に残らなかったってことでしょう。

 でも「エスタンシア」の演奏はとってもよかったです。大人数のオーケストラから発せられる大音量で、「お国もの(「国」は厳密には違うのですが)」のレパートリーのツボを心得た会心の演奏で、これもやはりノリノリに盛り上がりました。個人的にはこのオーチャードホールの音響はステージだけで響いて客席にあまり伝わってこない感じがして、ここでの演奏会に満足できたことは少ないのですが、このときはそれが全然気にならないくらい、音がダイレクトに伝わって来ました。

 しかもこの後に、怒濤の盛り上がり系アンコール曲の連発。オケのノリも、観客の反応も、アンコール一曲ごとに更にワッと盛り上がってくる感じで、観客はみな熱狂と興奮の中、最大限の拍手でこのオケを称えました。最後にもう一度「マランボ」が演奏されたように記憶しています(不確実)が、まさに「ダメ押し」という感じでした。非常に満足度の高いライブだったと言えるでしょう。この「怪しげな」オケの演奏会に不安を抱きながら来たであろう観客は、きっとみな予想外の「大当たり」に喜んだに違いありません(^^)。

 なお、この演奏会の映像はNHKで何度か放映されたとのことで、「このコンサートの映像をNHKで見て、"エスタンシア"という曲を知った」という方も多いようですね。

 演奏会データの詳細(日付、他の演目等)は、NIFTYの「クラシック音楽フォーラム」にて「山本晴望」さんに教えていただきました。

国立アルゼンチン交響楽団
1998年5月22日(金)  すみだトリフォニーホール
指揮:ペドロ・イグナチオ・カルデロン

ヒナステラ:バレエ音楽「エスタンシア」より3つの舞曲
ピアソラ:バンドネオン交響曲(バンドネオン独奏:ダニエル・ビネリ)
ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」より
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲(ギター独奏:エドゥアルド・イサーク)
ラヴェル:ボレロ

<アンコール(たぶん)>
レペラ:我がなつかしのブエノスアイレス
ドヴォルジャーク:スラヴ舞曲 第8番
ヨハン・シュトラウス:ラデッキー行進曲

 前述のコンサートで「エスタンシア」の生演をきいてから、もうずいぶん経っていることになります。久々にチラシ上で見た「エスタンシア」の文字と、同時になんと言っても「国立アルゼンチン」の文字に惹かれました。文字通り「お国もの」「本場もの」のエスタンシアが聴けるとあっては期待が高まります。他の曲目もたいそう魅力的だし。

 でもこのときは私ももう就職して仕事を持っていたので、平日の夜に行けるかどうかわからなかったので、当日券ねらいでいくことにしました。ま、曲目やオケの知名度を考えると、「チケットが売り切れることは絶対あり得ない」と安心して当日をむかえました。開演の少し前にトリフォニーの窓口へ行ってみると、案の定当日券が売られている。で、列に並んでいると、後ろから誰かが私の肩をたたき、「招待券が余ってるんですけど、いりませんか?」と声をかけてきました。ラッキー、ってことで、この演奏会は、タダで聴くことができました。

 でもさすがにタダ券だけあって、位置はあまりよくなかったです。ステージのすぐ前、一階で、一番左寄りの席。ここだと、お目当ての打楽器がほんど見えませんでした(^^;)。でも自分が座ったブロックにはほとんど他の観客がいなかったので、真ん中の方に勝手に移動。なんとか太鼓の見える位置に行くことができました。ちなみにいうと、この日が非常に空いていたのは、このオケの別公演でアルゲリッチがラヴェルのピアノ協奏曲を弾くプログラムがあったので、かなりの人はそちらに流れたためでもあるかと思われます。

 さて、目的の「エスタンシア」はプログラムの冒頭。曲目は「エスタンシアより3つの舞曲」となっています。組曲は4曲だから、ぜんぜん違う抜粋法なのかなあとも思いましたが、聴いてみると、普通の組曲からIII曲目を抜かしただけでした。こうした抜粋法はこの時初めて聴きましたが、この選曲の録音はいくつかあるので、なにか根拠のある別の組曲版なのかもしれません(知識無し^^;)。でもティンパニが大活躍するIII曲目が聴けなかったのは、大変残念に思いました。

 演奏の方ですが、前プロに置かれたせいか、3曲だけで短かったせいか、ともかくあまり感激する間も無くあっという間に終わってしまったという感じ。「ご当地本場のオケによる演奏」ということでちょっと期待しすぎていたのかもしれません。きっとこのオケの海外公演にはヒナステラは欠かせないレパートリーとなっているのでしょうし、さすがにやり慣れているという気はしましたが、まだちょっとエンジンがかかっていなかったかな、という印象でした。まあ、曲が曲だけに、迫力ある演奏をそれなりに楽しめましたが。

 さて、その後は次第にオケは調子を上げていき、演奏会もどんどん盛り上がっていきました。このオケ、技術的には巧くはないんだけど、力業で盛り上がらせてしまうようなノリがありました。アンサンブルは乱れまくりでしたが、でも聴いててとても気持ちがいい演奏になっていました(ただし、最後の「ボレロ」はさすがにちょっとこちらがハラハラしてしまいましたが。特に小太鼓のリズムや管楽器のソロ)。でもこの日の収穫は、何と言っても二つの協奏曲でした。いきなり台の上に足を乗せ、真っ赤な顔で弾きまくるビネリのバンドネオン。そして、まるで演歌のように「泣き」の表情を見せながら、曲の世界にはまり込んで歌い上げるイサークのギター。一階で表情が近くで見れた分、その演奏に感動させられました。

 ってことで、「エスタンシア」の影はイマイチ薄かったものの、演奏会全体としてみれば大変楽しめ、結果としては「行ってよかった」と思えるコンサートでした。 

NHK交響楽団 第1395回定期演奏会
1999年12月1日(水)  サントリーホール
指揮:シャルル・デュトワ
ヒナステラ:バレエ組曲「エスタンシア」
モンサルバーチェ : 5つの黒人の歌(ソプラノ独唱:浜田理恵)
ピアソラ : バンドネオン協奏曲(バンドネオン独奏:ダニエル・ビネリ)
ヴィラ=ロボス : ブラジル風バッハ第5番(ソプラノ独唱:浜田理恵)
ピアソラ : アディオス・ノニーノ(バンドネオン独奏:ダニエル・ビネリ)
ラヴェル : ボレロ

 ついにN響がこの曲を演奏するとのこと。しかもなんとデュトワ指揮のエスタンシアです。彼のモト奥さんはアルゼンチンの人だったし(アルゲリッチのことね)、NHK教育テレビの「シャルル・デュトワの若者に贈る音楽事典」という番組の南米の回でこの曲を取り上げていたとのこと(私は見ていないのですが)。こんなプログラムを組むぐらいなら、実は「エスタンシア」に思い入れがあるのではないか?とか考えて、楽しみにしていました。それになんたって、この演奏会のすぐ二週間後に、自分が「エスタンシア」のティンパニを演奏することになっており、練習に取り組む日々でしたから(↓の「ル・スコアール管弦楽団」の項参照)。

 で、演奏を聴いた感想ですが、N響ファンの方、すみません。はっきり言って、まるっきり期待はずれでした(^^;)。デュトワもオケも、この曲を「無難にまとめる」ことに終始していたようで、「熱狂と」か「興奮」とかからは全く無縁の演奏でした。この曲って、どんなオケがどんな演奏をしようとある程度は盛り上がれる、と信じていたので、この演奏はかなりショックでした(^^;)。特に打楽器は、「ここをこう演奏しよう」のようなこだわりや思い入れ、あるいは研究の成果が見られるような箇所は無く、ただ「楽譜が指定した瞬間に、鼓面と撥が接触している」以上のものは感じられませんでした。

 思うに、在京のプロオケが近現代の演奏機会の少ないちょっと毛色の変わった曲をやるとき、聴衆としては「この曲を生で聴けるなんて」と大いなる思い入れを持って聴きに行きますが、彼らにしてみれば日常のルーティーンワークの一環にすぎないわけです。知らない曲でも2〜3回程度の練習で本番をこなさなければならず、多くの場合、曲全体や自分のパートについて咀嚼する暇もなく、最低限楽譜通りに間違えないで演奏するのがせいぜい、ということなのでしょう。複雑な曲では、楽譜通りにすら演奏できていない本番を聴くことも多くあります。これはN響に限ったことではないでしょう。今回の「エスタンシア」では、オケがパート譜の間違いをことごとく再現していた、ということからも、それが伺えるかもしれません。この6曲もあるプログラムの第1曲目ということで、残念なことですが、ほとんど「捨てプロ」に近かったのではないか、と思います。

 ただし、この演奏会をテレビ放送で見た弦楽器をやっている友人は、「あのエスタンシアの弦の弾きっぷりはなかなかすごかったですね。さすがN響です」と賞賛していました。そちら系の人が見れば、また違った感想を持ったのかもしれません。デュトワの指揮は、盛り上がりとは無縁でしたが、きれいにまとめようとしていたようには感じられ、II曲目などはまあ悪くはなかったです。それよりも、ともかくこの「エスタンシア」をプログラムにのせてくれた、というだけでも感謝しないといけませんね(^^;)。

 ところで、今回の演奏会のバンドネオン、ほんとうはネストル・マルコーニという人がやるはずだったのですが、急遽変更でビネリ氏に。一年ぶりの再会となり、またまた情熱的な思い入れたっぷりの演奏を聴かせてくれました。今回の演奏会の収穫は、これに尽きます。メインの「ボレロ」はやはり盛り上がりにまではいたらず、打楽器の演奏とともに不満を残しました。まあ、N響の打楽器が<投稿者削除(^^;)>なのは打楽器業界では有名な話ですから、このオケの演奏会ではあまりその辺にはこだわらず、オケ全体を聴くようにしなければ、といつも思ってはいるのですが(でもやっぱどうしても聴いちゃうんですよねえ)。

 もしデュトワがこの曲のCDを出したりするという場合は、もうすこし曲を勉強した上できちんとリハーサルをしてから録音してほしいものだなあ、と思いました(しかも、できればモントリオール響あたりで^^;)。

●自分で演奏した「エスタンシア」の記録

 私はアマチュア・オーケストラで打楽器を演奏しています。ここでは、これまで私が打楽器奏者として「エスタンシア」を演奏した演奏会について、ご紹介します。以下さらに私的な記録になります(^^;)。

ル・スコアール管弦楽団 第7回演奏会 ル・スコアール管弦楽団のホームページへ
1999年12月12日(日)  練馬文化センター大ホール
指揮:橘 直貴
シベリウス:交響曲第7番
ヒナステラ:エスタンシア
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ

 大学生の時にこの「エスタンシア」を知って以来、関わるオーケストラでは選曲の機会があるたびに、この曲を候補に出し続けてきたのですが、なかなか自分で演奏できる機会は来ませんでした。大学オケ現役時代は指揮者の「知らない」の一言であえなく撃沈 (ToT)。その後、関わったいくつかのアマオケで何度か出しましたが、惜しいところまでは行くのになかなか決定にまでは至りません。ある時は、ショスタコーヴィチの交響曲第8番の前プロとして、モーツァルトの「プラハ」と決戦投票まで行き、結局敗れたこともありました(でもこれってどんな選択肢じゃ!?)。

 この「ル・スコアール管弦楽団」でも、何度か出しては却下、という目に遭っていましたが、これまでのオケと違ったのは、なんとなくこの曲に関して好意的な人が多かったこと。他のオケでは「なに、この曲?」と冷たい反応が返ってくることが多かったのですが、このオケでは落ちはしたものの「いつかやることになるかもね」という手応えがありました。過去の演奏曲目からもわかるとおり、このル・スコアールには、普通のアマオケで取り上げるような曲に飽きたらず、毛色の変わった20世紀の音楽に魅力を感じるようなメンバーが集まっているからでしょう。

 で、この曲が演奏会の演目にのる機会は、このオケの第7回演奏会にやってきました。はじめ、シベリウスの交響曲第7番と、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」の二曲がプログラムに決まりました。このまま二曲プロで行こうかという計画もあったのですが、シベリウスは約20分、ペトルーシュカは約35分の曲ということで、この二曲だけでは演奏会として短すぎるのではないか、という話になりました。そこで、何かもう一曲適当な曲はないか、となったので、ここで私は「エスタンシア」を強力に推薦しました。セールスポイントは、まず前プロとして長さが適当であること、編成的にも他の二曲の編成でまかなえること、それと、このときの重要なポイントであった「弦楽器の負担が少ない曲」ということ(既に決まっていた二曲で弦楽器的にはもう大変なので、さらに一曲追加するならあまり負担になる曲は困る、という理由)でした。で、他に適当な曲もあがらなかったので、意外とアッサリ決まってしまいました。でも思えば10年目にしてようやく実現、ってわけです。それにしても、なんとかっこいいプログラムなんでしょう(^^)。

 パートはティンパニをやりました。他の打楽器のメンバーから「好きなパートを選んでいい」という好条件を思いがけず提示され(いつもはパート割りでもっともめるのです)、かえって本気で悩んでしまいました。だって、木琴もやりたいし、太鼓群もおいしいし....。で、結局選んだのが、やはりいちばん出番の多いこのパートでした。私自身は普段は小太鼓とかタンバリンとか小物系をやることが多いので、ティンパニはとっても久しぶりでした。その前にやったのはヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」だったなあ。この手の曲しかティンパニはやらないんです。ティンパニに旋律のある曲しか(^^;)。

 やはり聴くのと演奏するのはだいぶ違います。この曲、自分で演奏していて非常に気持ちがいい曲でした。特に最後の「マランボ」は、まるでバリ島の「ケチャ」のような集団催眠状態。音楽に身を任せながらひたすらティンパニを連打していると、いつの間にか熱狂と興奮の渦に巻き込まれていきます。サンバ・ハウスで踊り狂ったり、祭りで神輿を担だりしているときの興奮を思わせるものでした。弦楽器の人からも、「あの中で同じ音をひたすら弾いていると、トリップした感じになりますね〜」というようなコメントも聞きました。いやあ、あの興奮は他の曲ではなかなか味わえないですよ。世のアマオケのみなさんには、是非お勧めします(で、もし決まったら、ついでに私も出していただければ....バシッ☆\(-_-)。

 演奏自体も、手前味噌ではありますが、非常によいものだったと思います。他人の演奏を聴くときは、どうしても「ここの部分はこうやってほしかったなあ」とか出てくるのですが、自分で演奏する場合はそうした部分を自分の理想通りに演奏できるわけですから、満足度も高くなります。また、練習後の飲み会では「ここはこういうふうに演奏しなきゃ、話になりませんよねえ」とか指揮者に向かって講釈をたれたりして(^^;)。ちなみにこの指揮者はバティスのエスタンシアにはまっていたようで、おかげで速めの熱狂系演奏になりました。後からこの演奏会のCDも聞きましたが、演奏技術上のミスは少なくないものの、客観的に言ってもなかなかいい出来だと思います。特に打楽器陣に関しては、その爆裂度とこだわり度は「ディスコグラフィー」に挙げたあらゆる演奏をも越えていると信じます。

 というわけで、私のエスタンシア初演奏体験は非常に満足ができるものでした。他の二曲の完成度も高く、コンサート全体的に見ても大成功だったと言えるでしょう。終演後のレセプションでマイクを持った私はオケの皆さんに挨拶をしました。「エスタンシアにつきあってくれて、どうもありがとう!」。でもやりたいパートはまだたくさん残っている....あと7回やらなくちゃ(^^;)。

水星交響楽団 野外音楽会 水星交響楽団のホームページへ
2000年8月19日(土)  くにたち郷土文化館歴史庭園
指揮:斉藤 栄一

スッペ:「軽騎兵」序曲
ヴォーン・ウィリアムズ:グリーンスリーブスの主題による幻想曲
シャブリエ:狂詩曲「エスパナ」
ラヴェル:マ・メール・ロアより「美女と野獣の対話」「妖精の園」
ガーシュウィン:キューバ序曲
本間勇輔(斉藤栄一編):「古畑任三郎」のテーマ
バーンスタイン:スラヴァ!
コープランド:ロデオより「土曜の夜のワルツ」「ホウダウン」
アンダーソン:「タイプライター」/「舞踏会の美女」
ハチャトゥリャン:ガイーヌより「剣の舞」
小山清茂:管弦楽のための「木挽歌」より「盆踊り」「フィナーレ」
レスピーギ:交響詩「ローマの松」より「アッピア街道の松」

<アンコール>
萩原哲晶(斉藤栄一編):スーダラ節
ヒナステラ:エスタンシアより「マランボ」
ヨハン・シュトラウス:ラデツキー行進曲

 前述したル・スコアール管弦楽団の打楽器メンバーのうち何人かがこちらの「水星交響楽団」にも所属しており(東京のアマオケ界ではこのように一人でいくつかのオケを掛け持ちしているのが普通)、ル・スコアールでこの曲の味を知ったメンバーが、こっちのオケでももう一度やろう、と考えた結果のようです。

 この演奏会は「野外演奏会」とのことで、なかなか楽しい小品がたくさん集められました。一見すると、よくある「名曲コンサート」のように見えます。しかし↑のプログラムをよく見ればわかるとおり、名曲コンサートを装いつつ、その実はどう考えても「自分たちがやりたいけれど普段の演奏会ではとりあげにくい曲を、これを機にドバッとまとめてやってしまおう」という、超自己中心的な選曲(爆)と言えると思います。このような中に「エスタンシア」を紛れ込ませるには絶好の機会だったというわけです。

 しかし、この水響はル・スコアールと比べると、(演奏会のメインにチャイコフスキーやベートーヴェンを取り上げたりするぐらいですから)比較的まともな人たち(^^;)が集まっているオケ。「エスタンシア」がそう簡単にプログラムにのることはできなかったようです。はじめは本プロに組曲四曲を入れる予定だったたものの、コンサートミストレス氏の「これじゃあ打楽器みたい」という不満の声を筆頭に反対意見が相次ぎ、組曲四曲から終曲の「マランボ」のみになり、さらには本プロから下ろされてアンコールへ、と苦難の道を辿っていったとのことです。まあ、でもこうした形であってもプログラムに残った、というところに水響打楽器陣の苦労と努力が認められるでしょう(^^;)。

 以上、選曲の過程について、聞いた話をもとに書きましたが、万一事実と反する点があれば御指摘ください>水響関係者の方々

 さて、私はこの演奏会に、エキストラ(賛助出演)として乗せていただきました。バーンスタインの「スラヴァ!」という曲に打楽器奏者が10人必要ということで、かき集められたのです。で、「エスタンシア」は本当は打楽器8人で済むので、私はこの曲にのる必要が実はなかったのですが、私にエキストラの話が来たとき「エスタンシアでなんかやらせてくれるんなら乗ってもいい」とタカビーな返事をし、無理矢理この曲のパートをまわしてもらったのでした。

 パートはカスタネット。同じリズムを16小節叩いて終わりです。時間で言うと12秒程度(^^;)。まあ無理にまわしてもらったパートなので、しょうがありません。でも、実はこのカスタネットというパートはなかなか重要、かつ楽しいパートでした。終曲の再現部で中太鼓とともに登場し、次第に盛り上げながら最後の「マランボ」の爆裂オスティナートの部分へと曲を導いていきます。このカスタネットが中太鼓とともに派手に入って盛り上げるほど、曲は興奮度を増していき、終幕の熱狂状態につながっていくと言えるでしょう。私は両腕を振り上げ、ノリノリでこの16小節を演奏しました。あとから「一番目立っていた」というお褒めの言葉(?)もいただきましたので、少ない出番でしたが最善を尽くせたのではないかと思います。

 オケの方々は、この曲にけっこう苦労していたようです。練習でこの曲をやっている時も、自分は出番が少ないので他の人をわりとゆっくり観察できたのですが、みなさん「顔に縦縞」状態で演奏していました(「ちびまる子ちゃん」のアレね^^;)。練習後の飲み会で、ある木管の方に「楽しい曲でしょう?」と聞いたところ、「はっきり言って苦しいです....」と返事が返ってきたり、別の人からは「あれは打楽器のためにやっている曲ですからねえ」という声を聞いたりとか、ちょっと不安感が拭いきれないという感じでした。

 しかし、本番へ向けて、この曲は団内で着実にマニアックなファンを獲得していったようです。本番前後には団員の何人かの方から「楽しい」「はまってしまった」「頭の中でマランボが回っています」などのポジティブな(?)コメントも聞かれました。たとえこういう曲に慣れていない人(特にオーソドックス系弦楽器奏者や木管楽器奏者)でも、何回もマランボを繰り返しやっていると体にそのリズムが染みつき、いつの間にかその魔力から抜け出せない体になってしまうということでしょう、きっと(^^)。本番のアンコールで演奏された「マランボ」は遅めのテンポで、羽目をはずした熱狂などはあまりなかったものの、どのパートもその時点までに着実に仕上がっており、オケの力量を感じさせる好演だったと思います。

 演奏会自体も、「野外コンサート」ということで、たいへん面白い経験をさせていただきました。国立という辺境の地方都市のアマオケが、地元の観客のために開く地域密着型の野外コンサート。虫の声が高らかな田舎の夏の夜、「郷土資料館」の庭園に、子供連れやお年寄りも含めた地元の観客がそぞろ集まって、ノリのいい音楽に耳を傾ける。子供もお年寄りも、観客もオケのメンバーもとても楽しそうで、ちょうど上々颱風のコンサートの雰囲気を思い出しました。

 ただ、アンコールの「マランボ」に関しては、一曲目のアンコールの「スーダラ節」で会場の手拍子も巻き込み大いに盛り上がった後で、二曲目にいきなりよく知らないこの曲の登場、ということで、お客さんもやや「顔に縦縞」だったかな、という感も否めないですが(^^;)。次の「ラデツキー行進曲」で美しく幕を閉じたものの、ふだんクラシック音楽をそれほど聴いていないと思われる地元のお客さんたちは、「アンコールの二曲目はいったい何が起こったんだろう」とよく事態が把握できないまま「郷土資料館」を後にしたかもしれません(爆)。

 まあでも前述のようにとても雰囲気のいい演奏会でしたし、私自身、エスタンシアはもちろん他の曲も、たいへん充実した演奏ができたと思います。エスタンシアをはじめ、めったに演奏できないような曲をたくさん演奏できて、とても楽しめました。ナイスな演奏会にエキストラで呼んでくださって、ありがとうございました。さあ、次回は定期演奏会で「エスタンシア」組曲全部だ!

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